社長の四季① 2026年(令和8年)夏(76歳)『茶道』
▲1971年企画舎・宮本研作「美しき者の伝説」舞台写真。左が直樹。
師匠からは、いつも夕飯を馳走になり、それから指導を受けた。男の弟子はボク一人だった。習い始めて3年半後の正月(1975年)、北海道神宮での模範手前の5人の1人に選ばれた。大広間の中央の高台に座敷が組まれ、その周りを北海道中の裏千家の先生方が取り囲んだ。
釜横に京都から来られた家元の高弟が着座されている。内容はお茶のゲームを見せるもの。選ばれた代表手前は米国から来た男子学生。しかし、始まりからボクは危惧した。彼は極度の緊張感が漂い手が震えていた。「あっ」と思った瞬間に茶碗が倒れ、濃茶が畳に飛び散った。
ボクは高弟の目を見た。彼が片付けなさい、と目で合図した。瞬間にじり寄って懐紙で拭き、席に戻った。
終わって帰宅の時、師匠から感謝された。「皆から、よくぞアソコまで指導された、と言われたのよ」。次の稽古日に師匠に呼ばれた。「高弟から『京都に来る気はないか』と言われたのだけど」。
ボクは瞬時にお断りした。もう52年前の懐かしい一幕。あの時、京都へ行っていたらどうなっていたんだろう?裏千家を舞台に小説を書いただろうか?その後、帰阪すると共に、お茶の手前は幻(まぼろし)のように消えて行った。
(2026年7月15日付 / 毎奇数月15日発行)
