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会頭の履歴書

会頭の履歴書②(とよなかチャンバー2025年12月号より転載)

豊中商工会議所会頭 
吉村 直樹
(マリンフード株式会社代表取締役社長)


▲昭和3年 栄吉27歳、東大在学中。

【父Ⅱ】
 父栄吉は、長崎県出身で上京し成功した吉村石鹸工場主又作の七人男児の五男だが、卓越した事業家の長兄又一郎の意向で四十歳の時下阪し、老舗料亭で踊る母と出会い、戦後まもなく再婚した。
 父は結局、生涯事業家としての人生を送るが、文学と二足の草鞋を履いていた、とも言える。
 天武天皇の息子で、継母持統天皇に謀反の容疑で捕らえられ、自害した悲劇の主人公大津皇子を巡る小説『飛鳥の飛唱』を、七十歳で出版し朝日新聞が読書欄で大きく掲載してくれた。
 ボクは父と不仲だったが、死の前年原稿が詰まった行李を託された。およそ三千枚あった。一年近く毎週土、日曜日家に籠ってそれと格闘した。その時、ボクは父と和解したのだろうか。
 病床の父が「読むに堪える本が出来るか」と聞く。「今さらそんなことを言っても仕方がない」と答えると、父は嬉しそうに笑った。作品集『空想屋右三郎』と題して出版した。しかし完成は父の死に一ヶ月間に合わなかった。
 Ⅱ章『若き日に』の小見出し「浪漫々歩」の中に『音なき残骸』と題された詩がある。
『華やかな産卵のぬけがらは羽をふみ伸ばし 頭を地にすりつけて 音もなく地上に伏した。 その羽は赤く その銅はあいであった。 乱舞と狂観の夢は死に その幻しと見果てぬ夢は 音なき残骸を飛びめぐった。 ――春の疲れに蝶は死んだのか』(続く)