映画ランキングベスト250①(ほほづゑ2018年春 第96号より転載)
僕が初めて観た映画は、小学校四、五年生の頃(1995年頃)にテレビ放送で観たイタリア映画の「自転車泥棒」(214位)。茶の間で何気なく父母の隣で観始め、最後まで観てしまいました。炬燵に入っていたので冬です。最初に映画館で観たのはよく覚えていませんが、ディズニー映画の「眠れる森の美女」(276位)だったか、「101匹わんちゃん大行進」(303位)。父母ともにハイカラな人達でしたので、日曜日などに父の運転するヒルマンで梅田へ出掛け、映画を観て、食事をしたことを覚えています。
五十年近く前(1969年頃)に、北海道大学で演劇研究会に所属していたこともあり、今でも映画を観ることが好きです。とは言え、熱狂的な映画ファンではなかったのですが、五年前(2013年)に、「そうだ、和洋ごちゃまぜで映画ランキングを付けよう」と突然思い立ちました。
世界中で、過去七十万本内外(現在三百万本とも言われている)の映画が制作されているのかなと独断で推定しているのですが、昔観た映画も観ていない映画も平等に、改めて一からランキングしよう、昔観た映画は記憶の彼方だし、六十歳を過ぎた今の評価を鮮明にしてみたいと思いました。
今は亡き戦後文学界の異才・吉行淳之介と開高健の対談の中で、開高は吉行に「映画を観ないというのは老化現象の始まりですぞ」と忠告しています(この時吉行五十八歳、開高五十二歳)。
五年前から観た映画を中心に、過去に観た映画の記憶を頼りに、そろそろと、選択して来ました。いずれにしても、僕の私的ランキングのまだ途中経過ですが、七十歳直前(2018年)でもある訳ですし、見切り発車でその一端をご紹介させていただきます。
フランスで最も愛されたシャンソン歌手。父親は大道芸人、母親はカフェ・シンガー。主演のマリオン・コティヤールは、この映画でアカデミー賞、セザール賞、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞の主演女優賞を受賞した。 才能とは恐ろしいものです。何回観てもピアフの歌と、その人生に戦慄します。四十七歳で病死。パリの交通が麻痺したのは、ピアフの葬儀の時だけだったらしい。それだけパリ市民はピアフを愛したのです。コティヤールはピアフと同化しようと、撮影中も仕事を離れた日常生活においても、ピアフを演じ続けたそうです。
個人的には、ピアフの晩年、海辺の砂浜に座って雑誌女性記者の、とりとめのないインタビューに、優しい笑顔で淡々と答える場面が好きだ。総てを超越してしまっている。
日本の映画界が、美空ひばりをここまで描けるだろうか。
主演カトリーヌ・ドヌーヴ。カンヌ国際映画祭グランプリ。
僕にとってのナンバーワン女優ドヌーヴの出世作。シェルブールはイギリスの対岸ノルマンディー地方にある古い港町。そこの雨傘店の娘が主人公。
初恋の相手が、アルジェリア戦争に出征する。お腹には彼の子供が宿っている。彼が帰還した時、彼女は子を連れて他の男に嫁いでいる。男は傘店の苦境を救ってくれた上に、その子を一緒に育てようと言ってくれたのだ。
ラストの場面で、初恋の彼はショックから立ち直り、ガソリンスタンドを経営している。彼を支えてくれた幼なじみの妻との間に、二人の子供が出来ている。娘を連れたドヌーヴの車が、偶然ガソリンスタンドに立ち寄る。
全セリフが歌。歌曲映画とでも言うのか。出だしの違和感も、しかしすぐ消えた。誰も不幸にはならないのに切ない映画だ。これほど端的に人生の哀感を描いた映画を他に知らない。最後の再会と別れは、二人が夫々幸せなだけに、一層胸がしめつけられる。ドヌーヴは、以後の映画で大人の女性の魅力も磨き上げていくが、この時は愛らしい。
一代で時価総額世界一の会社(現在600兆円、日本一はトヨタの53兆円)を創り上げたアップル社のかつての総帥の、成功前のインタビュー(アップル社を追放されていた最中。復帰は1997年)。
成功後のインタビューは世界にごまんとあるが、こんなの他にあるだろうか。ジョブズは、瀕死の経営環境にあったアップル社を横目で見ながら、「今は傍観しているだけ」と言いつつ、「これからパソコンの世界に新しい命が吹き込まれる」と新時代への展望を、確信に満ちた言葉で語っている。しかも、論理を超えた「文化」を、真の意味で会社の背骨に、直感的に据えている。
二年後に復帰し、アイマック、アイポット、アイフォーン、アイパッド等矢継ぎ早に発売し、アップル躍進の立役者になる。
マーケティングコンサルタントの青葉哲郎氏は、ニーチェの言葉を引いてジョブズの独創性を語る。「何か新しいことを最初に見ることではなく、古くから知られた誰にでも見られ、見過ごされているものを、新しいもののように見る頭脳」。
世界を変えた男の成功前の肉声。2011年に五十六歳で逝去。
監督スティーヴン・スピルバーグ。主演トム・ハンクス。アカデミー監督賞他五部門で受賞。
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線で四兄弟の三人が戦死したため、アメリカ陸軍参謀総長からの指示で、四人目の末っ子を救い出す闘い。プライベート・ライアンとは、ライアン二等兵のこと。
戦場の二十分間に及ぶ迫力に満ちたディティールは、過去の戦争映画のナンバーワンと評価されている。特に弾道の映像が凄い。
ストーリーはほぼ創作で、しかもこれを六十日間で撮ったということは、全体像や戦闘の細部が全部頭の中に入っていたのだろう。スピルバーグの天才が更に磨き抜かれている。
フランス戦線の戦場にピアフの歌声が流れる。ハンクス演じるミラー大尉が誰にともなく聞く。「これは誰だい」。疲れ切った兵士が答える。「エディット・ピアフ」。戦場に哀感が漂う。戦争映画の新しい到達点だ。
娯楽映画でないのに、世界中で五百三十億円の興行成績。
監督フェデリコ・フェリーニ。主演ジュリエッタ・マシーナ。アカデミー外国語賞受賞。
大道芸人の世界を生きる頭の弱い少女(ジェルソミーナ)の死までの物語。
監督夫人でもあるマシーナの存在感が忘れられない。ローマ大学在学時代、二十二歳で演劇青年フェリーニと出会い結婚。フェリーニ七十三歳の死(1993年)を看取って、その五ヶ月後に同じく七十三歳で他界。
二人の映画人、演劇人の同志的「愛」に泣ける。二人の正統派伝記映画こそ観たい。それを映画化できる現代監督は誰だろう。世界興行収入歴代一位「アバター」(92位)、二位「タイタニック」(12位)のジェームズ・キャメロン監督ならどんな映画を撮るだろう。
映画は、イタリアの敗戦後貧しさの中を日常的に生きる大道芸人と、知恵遅れの少女の不思議な交錯が、記憶の隅にいつまでも残り続けて、そのあまりの貧しさが少し辛い。
(財界人文芸誌『ほほづゑ』2018年春号より転載)
