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飛天

平成4年 「奇正の変は、勝げて、窮むべからず」

- 飛  天 -
(平成4年事業発展計画書より)

「......中国の奥地ヘシルクロードをたずねる旅行をした。遠い古代から、日本人の心の奥に遥かなあこがれの心をかりたてていたはずの、西方の文化に対する胸のときめきを夢みるような思いで追体験している旅だった。
 まる一日、敦煌の飛天を見めぐってのち、みずからの身が重さを失なって大空に舞いあがってゆくような興奮をおぼえながら、斜陽に浮かびあがる鳴沙山の稜線を、どこまでも気の遠くなるほど疾走した感覚は、今も私の体に焼きついている。
 この広大な国土や、その上に悠々と生きる数限りもない民の底しれぬ生活力の深さとたくましさ、千古を変ることのないような山河とその上を遅々として流れる東西文化交流の文物の動き、それらに対して日本の小定型詩が何を為し得たか。この歌集を『飛天』と名づけたかつたのは一にその点にかかつている。」(岡野弘彦 歌集「飛天」)

 事業の繁栄発展の究極は、たった二つのコンセプトから成立っている。
 一つは成長拡大させること。もう一つは、安定させることである。この二つの哲理を同時に戦略課題とし、実行して、はじめて繁栄発展が起こる。二つのうち、どちらかの一つが欠けても事業の永遠の繁栄発展はあり得ない。

 400年前のスペインの作家セルバンテスが書いた『ドン・キホーテ』という作品がある。痩馬にまたがり、騎士道を信じ、風車に向って突進するドン・キホーテの物語が語り伝えられるのは、その夢が非常識なものであるにかかわらず、あくまで美しいからである。

 600年前、世阿弥は『花伝の書』を著わし、舞は能を源としているが、その舞には、花がなければ舞にはならないことを伝えている。

 私達は、全くの偶然に、運命の悪戯から、同時代に生まれ、マリンフードに働いている。食品産業に従事している。
 食品事業は、特に業務用の食品事業は、バブル経済はもとより、家電・電子業界や自動車、住宅産業と比べても、限りなく地道で保守的な産業だ。
 おふくろの味つけを好む性向は、かつて食べたことのない食品の出現を阻み、ファッションや趣味に比べて、生涯変わることの最も少ない嗜好性と言われている。
 年間に2万とも3万とも言われる食品メーカーの新商品のうち、生き残ることが出来るものは100に満たない。「一番搾り」や「カルピスウォーター」はほとんど奇跡と言える。しかし、ひとたびお客様に我社の商品を注文していただければ、それを縁に、何回も、幾年も変らぬお取引をして頂ける。実に恵まれた事業でもある。
 お客様との長い信頼関係を、われわれの努力で築いていける。五年でも、十年でも、五十年でも、百年でも、限りない長い信頼関係を築いていけるのである。だからこそ、我社にとって、長く信頼して頂ける新しいお客様を開拓することは、最重要な課題だ。この重要な新規開拓のために、われわれは全営業力を投入し、生産体勢の全べてを顧客志向にしなければならない。全社員が、いつも、いつも研鑽しながら、他社を意識し、競争相手よりも良い物、新しい物、優っているものを武器にして新しい顧客を獲得すべきだ。
「人間は誰でも、本来、何事をも、自分が深く思い、考えたとおりに成すことができる。自分が、もしできないと思えば何事もできないし、できると信念すれば、何事をもなすことができる。つまり、すべてが自分が自分自身に課した信念のとおりになる」(中村天風 「成功の実現」)
 われわれはお客様のニ―ズに合わせて、営業の体勢、会社の体勢を整え、設備を近代化し、クレームを撲滅し、味の改良をくり返し、より完璧な食品を届けるよう努めなければならない。

 事業を安定的に維持存続させていくことは、成長拡大よりもはるかに至難であるも事業の安定は、同じお客様に、自分の会社が売っているものが何であっても、商品であっても、サービスであっても、形があっても無くても、その売りものを、同じお客様が、くり返し、くり返し、くり返し買って頂かなければ実現できない。
 環境の激変に耐え、激しい競争に生き残り、売上や利益が順調であり続ける事ほど企業やその社員にとって幸福なことはない。
 すべての事業は客商売だ。お客様がいない会社などない。客商売が客を忘れて事業を繁栄させようとしても、それはあり得ない。
 この社会は、人間が織りなす情から成り立っている。お客様に好かれるか、嫌われるかで、天と地の差が開いてしまう。
 だからこそ、私たちは、徹底的にお客様第一主義を貫き、何度も何度もお客様訪間をくり返し、人間性を可愛がって頂き、品質を高め、同行訪問を行い、お客様の会社の売上げに寄与する新製品を開発しなければならない。

 生後間もなく突発性脱疽によって、両手両足とも肘、膝関節を切断した中村久子さんという女性がいる。結婚すること四度び、三児(一人は死去)をもうけ、七十二歳の生涯を全っとうされ二十年以前に他界された。一一ヘレン・ケラーから「私より不幸な人、そして私より偉大な人」と言われた久子さんは、生前、一円の金も国家の恩恵にすがることはなかった。自分のパンは自分でかせぎ出すところに人間の尊厳が生れる。そしてその滋味の金で二人の娘をそだてあげ、充分な教育をつけて世に送りだされた。生涯の大半を見世物小屋で過ごされた久子さんの芸は、お母さんの厳しい躾のたまものでした。「ハサミをもつことは自分で考えてやること。考えてやんなさい」「ぼんやりしないで、麻でもつないでごらん」「できるまでやってみることです。やれないのはやってみないからです」。久子さんはこうして、口だけで裁縫も刺繍も編物も、部屋の掃除も囲炉に火を焚くことも、洗濯も包丁を使うことも、ハシでごはんを食べることも一流の腕前で出来るようになりました。

 私達は、私達の全ての売物を、もっと、もっと徹底的に磨き上げることが出来るはずです。
「マリンフードの商品は素晴しい」「マリンフードの営業マンは実に愉快だ」「ぜひマリンフードと商売をやりたい」「うちの子供をマリンフードに入れたい」と言われる会社を創り上げることが出来れば、偶然に入った会社、偶然に出会った運命の中で、一回きりの私達の人生が、どんなに輝いたものになるだろう。
 私達は、永遠に成長拡大と安定を戦略課題とし、競争相手と差別化した売り物をお客様に提供し続けることを、繁栄発展の動かせない哲理としていなければならない。

 この事業発展計画書は、私が精魂こめて書きあげた、お客様に対する考え方、あらゆるサービスの姿勢、心、信念する経営思想をまとめたものである。
 全社員とその家族が、豊かで、明るい生活を営むために遂行しなければならない必達の売上、必達の利益が明示してあり、それを実現するすべての戦略、方針、構想、実行手段が網羅されている。
 私は、この必達の売上利益確保のために、お客様第一主義を採り、競争力を強化し、新しい市場開拓を行い、情熱あふれる経営を推進することを、天から課せられた使命だと考え、実行する。

平成4年1月31日
取締役社長 吉村直樹